【魔法世界】


〜第零章〜

・・・こいつ、強いな

俺が負けたのは何年ぶりだ?少なくともここ十数年は負けた記憶なんてなかったんだがな。
そんな俺が今は地べたに叩き伏せられ動けやしねぇ。

屈辱だ。

俺をこんなのにした相手は胸の膨らみから女性に見える。
だが俺は知っている。こいつは女じゃない。
いや、そもそも『人間』ですらないのだ。



この日、俺達の国は攻撃を受けた。



他ならぬ、俺達の国を封じ込めた、外国から。





〜プロローグ〜

『鎖国』。これは国の名前である。そう、かつて『日本』と呼ばれた国の。
世界中に死と争いを招いた恐怖の戦争である第二次世界大戦。その戦争で勝者などいなかった。
大戦末期、アメリカの参戦で誰もがこの戦争は収束を迎えると思っていた。
しかし、天の気まぐれか神の悪戯かそれかただの宇宙の意思か、これまでの戦争全てを否定するようなことが起こった。


それは巨大隕石の落下


その隕石は見事日本に衝突。この隕石は日本だけでなく世界に大きな爪痕を残すことになる。当時の日本は疲弊に疲弊を重ねた上での一撃だったので戦争を続ける力を失うどころか、国としての機能の存続すら危うい状態となった。
当然、始まる日本制圧作戦。ほぼ全ての国が日本の敵に回った。
だが、ここでさらに彼らにとって予想外の事態が起こることとなる。

それは、隕石から少しずつ漏れていた微量な粒子
その未知の粒子は、人の心によって作用する摩訶不思議な粒子だった。
人の心に作用して粒子は反応する


後に、『魔法』と呼ばれる現象だ



その粒子は日本中に広がり、老人から赤子まで差別無く全ての人間の体に浸透していった。
この瞬間、日本にいる全ての人間が『魔法使い』となったのだ。
世界からの侵攻は人々の心に恐怖と憎しみを生んだ。
日本にいる全ての者がこう願ったのだ。

「いやだ」、と

拒絶の意思というものは守備的なものでない。それは限りなく攻撃的なものである。
魔法陣も詠唱も無い魔法などほとんど効果というものを発揮しない。しかし、日本にいる全国民の拒絶の思いから同時に生まれたこの世界初めての魔法は雪山を転がり落ちる雪玉のように加速度的に強大化し、日本の目前まで迫っていた全ての敵軍を焼き払った。
あらゆる軍、
陸も、
海も、
空も。
この魔法の前ではあらゆる兵器、軍は抵抗すら許されず消えた。
まるで日本という国がその存在を許さないかのように。
残ったのは静寂。

世界中の軍の三割を消滅させたこの世界初の魔法攻撃は後に「戦末の断末魔」と呼ばれることとなる。全ての国が戦争続行を不可能な状態となり第二次世界大戦は終結した。終戦後、日本を除く世界中の全ての国は日本を危険国と判断し、『封鎖』することを決定。全ての国が一時的に協力し、日本という「超大国」の周りを相互不可侵の壁で囲んだ。数年でただの壁だったそれは、徐々にアーチ状となり、仕舞いには日本全てをすっぽり覆うドームとなった。この時より、日本はあらゆる意味での不可侵の国、『鎖国』となった。

時は経ち、隕石はなおも存在した。そして同時に魔法のもととなる粒子をずっと放出し続けていた。その間、わずかな隙間から世界に漏れ出す微量の粒子により世界にも少しずつ魔法が研究され、広まっていった。しかし一方で日本では皮肉にも日本を囲んだ壁が外に粒子を逃がすことを拒み、日本内での粒子の濃度は他の世界の国に比べて何億倍ともなっていた。そのため世界でこの粒子に反応できるもの、もとい魔法が使えるものは、『鎖国』ではあまりの粒子濃度に「溺れて」しまう。その上、世界との空気中の粒子濃度の差に、各国で研究されている粒子を収束させる方法、つまり『魔法』による攻撃は鎖国内ではあまりにも「薄すぎて」空気中で拡散、消滅してしまう。通常兵器は『魔法』相手に比べるとあまりにも無力だった。だからこそ日本―――否、『鎖国』は本当の意味で絶対の防御力をもった不可侵の国となっていた。

だが第二次世界大戦が終わって64年たった今日、その不可侵の神話は崩れることとなった。

この日、俺達の国は攻撃を受けた。



他ならぬ、俺達の国を封じ込めた、外国から。




〜第一章〜

話は二時間前にさかのぼる。
俺、いや、俺たちはまだ暗くなりきっていない夜道を歩いていた。
なんてことは無い。ただ、小腹がすいたので飯屋にでも行こうと思っただけだ。
そういえば一昨日から一食も食べていない。なぜだろう。
戦闘時でもないのについ癖で魔力による肉体操作を行ってしまったからだというのに思い至ったのは数秒。このまま気づかなかったらもう一週間くらいは食事を取っていなかっただろう。最近『角付き』を食い止めるために出撃続きだったからせいだろうか。
それにしても最近の軍は俺らの扱いがひどい。いくら自分たちでは相手にならないからって軍の帝の近衛部隊である俺たちを一週間で四回も出撃させるのは多すぎる。しかも『位付き』にいたっては『角付き』だけじゃないか。『位無し』くらい自分たちで何とかして欲しい。
そんなこんなで愚痴を頭の中で考えていると、ふと話しかけられた。

『やっと食べる気が起きたの?いい加減自分の体くらい自分で管理してよね』
「いや、でもさ、食う必要も無いのに食うのもなんかアホくさいと思うんだ。出費がかさむしね。」
『いやいや、あんたの給料で金に困るとか無いでしょ。帝様に言うわよ。あなたがめんどくさがって食事をとろうとしないって。絶対帝様は怒るわよ。』
「あー・・・はいはい、すいませんね。そこまで心配をかけさせて。」

俺の隣に影は無い。歩いているのは俺一人だ。先ほどから俺が喋っている相手は俺の杖に組み込まれている擬似人格『浦霧』。性別は女。設計者は俺。

『べっ、別にあんたのことが心配で注意してるんじゃないんだからね!勘違いしないでよ!!?』

ツンデレって世界に誇れる技術だと思うんだ。

そして事の起こりは俺が無事目的の定食屋の前について店のショーケースにある料理の中で何を食べようか迷っていたときだった。

「・・・・・・そういえば、最近俺肉食ってないよな。肉」
『そうよね。野菜も、魚も、パンも、米もね。』
・・・・・・・・・・・・・・

まぁ、つまるところ何を食うにも久しぶりだから何でもいいじゃんってことか。
よし、肉にしよう
メニューを決めて店に入ろうとした刹那、轟音が鳴り響いた
音源は彼方の上方、空――――否、「天井」の方だ
見上げると

空が割れ、黒い玉が落ちてきた

巨大な玉だ。直径数百メートルはくだらないだろう。それが「天井」を砕き、姿を現した。
後に、これが「黒船再来」と呼ばれる事件なのだが、どれを俺が知るのはまだ先だった。

『うわっ!!?何あれ!!?何あれ!!!!?ちょっとまって!!あんなのデータベースに無いよ!!?新しい獣??!』
「知るか!!お前がわかんなくて俺にわかるわけ無いだろ!!よくわからんがともかくあれは―」

黒い玉が落ちた。
街の、ど真ん中にだ。
屋敷が、家が、店が、道がすべて押しつぶされ消えてゆく。
当然、人も。

「――敵だ!!!」

玉が割れる。そして玉から幾本もの脚が現れた。その巨大な脚は大地に根付き、さながら蜘蛛のように見えた。瞬間、蜘蛛が一瞬沈んだ。―否、あれは何かを上方に打ち出したのだ。魔力を使い視覚強化。発射されたものを見つけ出す。小さな家屋程度の黒い玉が射出されていた。
建物を押しつぶしながら着弾。着弾後玉は西瓜のように割れ、中から何かが複数出てくる。
見たことない武装をした人間たちだった。

「おいおい。まさかあれって・・・・・」
『そうね。「砲弾」兼「兵士」ね』
「つまりあれを撃ち出していたでっかい黒玉は・・・」
『母艦ね。しかも友好的でないときた。』
「うわ・・・・最悪・・・・・」

本当に、泣きたかった



64年ぶりに降り注ぐ月の光の中、64年ぶりに日本、いや、鎖国と外国との戦争が始まった。



『基礎魔方陣を展開。』

俺の足元に広がる複雑にして単純な模様を含む円。それこそがこの国のすべての魔法に共通する基礎魔方陣。この魔方陣は詠唱無しでも展開ができ、基本的な魔法はこれひとつの魔方陣を展開することによって使える優れものだ。さらに、この基礎魔方陣にさらに複合魔方陣を重ねることで多くのバリエーションの魔法が使えるようになる。基礎魔方陣は一度魔方陣を展開させてしまえば術者が自ら望まない限りは消えないが、逆に複合魔方陣は一度魔法を使ってしまうと消えてしまう。しかも複合魔方陣は基礎魔方陣が無いと術式を維持できない。いうなれば、コップと水の関係だ。「コップ」である基礎魔方陣に「水」である複合魔方陣を注ぎ込むことによって「重み」である威力が上がるのだ。
・・・・・って俺は誰に何を説明してるんだ。

「走の魔法その一・燕」
『燕展開』

足元から光の粒子が溢れ、その粒子を使い川を流れるように俺の体が滑る。その速度は軽く自動二輪車を凌駕する。目的地は母艦。経験上、このような組織は頭を叩いた方が早い。

「誰だか知らんが、俺の食事の邪魔をするようなうやつに一瞬たりとも生きる価値無し!」
『ちいせぇな!!?』
「心は狭くてハートは広いのがこの俺だ!!」
『完全に矛盾してるよ!!!?』

そう言う間に兵士の一人が俺の前に立ちはだかった。全身が鎧のような密閉スーツに隠されている。どうやら、俺を敵と認識したらしい。手に持った自動小銃をこちらに向ける。

「はっはあ!たかだか鉄の塊で魔法戦士(俺)を倒せるとでも?」
『打の魔法の六・角』

瞬間、兵士の半身が粉々に吹き飛ぶ。そしてそのまま崩れ落ちる兵士の横を通り抜ける、

はずだった。

頭と右腕が吹き飛ばされ無くなった兵士が倒れずに――俺の脚を掴むまでは。

「うぇぁあああ!!?何これ!!死んでない!!?」
『うっわ気持ちわる!!気持ちわる!!打の魔法の十四・崩脚!!』

兵士の体が見えない力によって地面に叩きつけられ完全に圧壊される。

「はーはーこわっ!!こっわ!!!!何だこの兵士!!?不死兵かよ!!」
『さすがに・・・もう動かないようね。こいつ・・・・・あれ?ねぇちょっと。こいつの死体を見てみなよ。』
「あ?これだけぐちゃぐちゃじゃ何もわかるわけないだ・・・・」

そして俺は初めて気づいた。

「・・・・・・まじかよ・・・・・人間じゃないのかよ」

足元にある兵士だったもの。その体の全てが

『そうね。機械の兵士なんて初めて見るわ。』

鈍く光る鉄で出来ていた。




(続く)

【作品解説】(09,02,13更新)
本格ファンタジーもの。
厨二病が絶好調です\(^o^)/
テーマは意外にも『愛』。
まぁ、まだヒロインすら出てきてねーしギャグを挿む要素も無いのでなんともいえない状況ですが。
気長に待ってみてください。(´・ω・`)
続きは書きたい作品。