【現実の五重奏】



「悔しいのか?」
と聞かれた。

当然俺は
「いいや」
と答えた。
悔しいのとは少し違う。


ただ、無性に悲しかっただけだ。




*******

「久々に学校来たと思ったらサボりか。
それを探しに来る私の身になれ。めんどくさい」
ある春の日の午後、授業をサボって屋上で気持ちいい風を感じつつひなたぼっこしてる俺は背後から話しかけられた。

「…心外だ。お前もサボりだろうが」

俺の背後、侵入禁止の立て札を無視して屋上に入ってきた人物は俺と同じサボりの常習犯、南枕(ナマクラ)桐美(キリミ)だった。
あたかも自分が真面目な生徒ぶるのはこいつなりの親愛の証だ。
あり程度仲良くないと口もきいてくれない。
髪を後ろで束ね上げているためパッと見頭から髪の毛製の触角があるかのようだ。
整った顔と白磁のような肌を併せ持つ美貌はそこら辺のモデルなんかより美人なのではないのだろうか。
まぁ、個人的にはその美貌と引き換えに胸がペッタンコに生まれてしまったんだと思っている。
口にはいつものように棒付き飴をなめている。

「まぁ、私の場合学校に来ていることすら知られていないから欠席扱いだがな」
そっちの方が質悪いだろ。
「…嘘だ。既に何人かには姿を見られてる」
当然だ。
いくらなんでもここに来るまでに誰とも会わないのはほぼ不可能だ。

「……飴、それ好きだな。お前」
ふとなんとなしに聞いてみた。
入学してからの一年半、ずっと隣の席を座っているが一日に二本な必ず舐めている。
多分、歯医者泣かせな奴なんだろうなと思った。

「…お前がその質問をするのは百とんで六回目だぞ」
「知ってるよ」
「つまり返ってくる答えは?」

「『お前の次位に愛してるよ』だっけ?」

「惜しい。お前を除けばこの世で一番愛してる、だ」
知るか。
まぁ、嬉しくは、あるが。
「あーもう、どうすればお前は振り向いてくれるんだ?あれか?私の処女を捧げればいいのか?』
「畜生!!色々と台無しだぁ!!」
俺の感傷を返せ!!

あーなんか馬鹿馬鹿しくなった。
教室に戻るか。
「ダメだ!私が欠席じゃないか!一緒にいられない!」
「遅刻って発想は無いの!?」
「やるならオールオアナッシングだ!そんな媚びを売るような真似したくない!」
こいつうぜー。
っていうかそれ媚びてないし。

「まぁ、そんなわけで一緒にサボろう」
こうして、また彼女は自然に俺を堕落の道に誘うのだ。

まぁ、

「……わかったよ。何処行く?」
悪い気はしないんだがな。

***


学校をサボって行き着いた先は赤い髪と白い顔が特徴の明るいピエロがマスコットキャラクターのファーストフード店だった。
合い言葉はりゃんりゃんるー。
そして何故かそこには

「やあやあ!相変わらず仲がいいね」

俺達の悪友、鵜卒木(ウソツキ)真実(マナミ)が待ち構えていた。
真実を見た瞬間、桐美はサッと俺の背後に隠れた。

…警戒してるな。

そう思う俺の背後で桐美は半眼で彼女を睨みながら自分の巻いているマフラーの先端を鞭のように振り回してけん制している。

…ってか威嚇だな、これは。

桐美は真実が決して嫌いというわけではない。
実際、女同士話が合う部分もある。

ただ、苦手なのだ

何故なら
「ふふふ、あぁ、やっぱ今日も桐美はかわいいなぁ、ちゅっちゅしてえなぁ、ってかもうホテル連れ込みてぇなぁ」
真実は同性愛者(レズビアン)だからだ。
しかも常時発情してるときた。
男の俺でさえ相手するのが結構めんどくさい。

ウェーブのかかった髪を一つにまとめ、ポニーテイルにしている真実は確かに、顔立ちは整っている
プロポーションも良い。
だが男子からの人気はいまいちだ。
何故なら、真実の二つ名が【拳王】、
うちの街で数々の人間破壊伝説を残した不名誉な称号だ。
本人曰わく握力は三桁いくらしい。
今思えば真実に喧嘩で勝ったことはない。
年の差があるとはいえ、男のプライドをぶち折るような強さだったのは覚えている。
まぁ、頭脳戦なら全勝しているのだが。

そんな彼女が俺達の行動を先回りしている。
何か無いわけ、無い。

「…何か用か?」
「フーッ!!」
いや、威嚇はもういいから。
「あるに決まっている!ホントは無かったけど今作った!!っていうか私を除け者にしないで!!寂しい!!」
意外と繊細な奴だ。

「やだ!!」

あっさり桐美が否決。
っていうか二人とも、こんな店の前で叫び合うくらいならさっさと店に入ろうか。
みんなの視線が痛いしね。


数分後

トレイに超シンプルなあのパンに肉を挟んだだけの食べ物と茶色い炭酸飲料を乗せ、俺達はテーブルで向かい合って話していた。
「何で君らはモグいつもいつも私をモグ除け者にするんゴクッだ!探し出モグすのめんどくモグさかったんだゴクッぞ!!」
真実が盛大に食い物にかぶりつきながら拗ねる。
…っていうかそれ俺のなんだけど。
「だってモグ私はモグこいつとモグ二人きりにモグなりたかったモグんだ!お前こそモグ邪魔するな!モグ除け者でモグいろ!!ゴクッ」
「お前も食いながらしゃべるな!!」
っていうかキツいこと言うなぁ、おい。
「これはモグあれか?モグ所謂巷でモグ有名な放置プレモグイというモグモグやつか?モグゴクッわたしモグ泣くぞモグ!?モグゴクッ泣くぞ!?ヂュルルルルルル」
あ、しかも自分のも食うんだ。
ってか飲むのもきたねぇ。
「モグモグモグモグモグモグゴクッヂュルルルルルル!」
もはや言葉になってねぇ!!
などとツッコむ俺の心情などには気付かす二人は会話(?)を続ける。
とりあえずしばらくはこの論争は終わる気がしなかったので大人しく黙って見ていることにして
「モグモグモグモグモグモグモグゴクッ?」
「モグモグモグモグモグゴクッモグモグゴクッ!」
「会話できてるし!」
思わず突っ込みをしてしまった。

さらに10数分後

俺は真実に相談を持ちかけられていた。

「学祭の出し物?」
そう、俺達の通っている狩染学園(カリソメガクエン)はあと2ヶ月程で学園祭を迎える。
自由な校風だけあってか、毎年ありとあらゆるジャンルの出し物が出されていた。

去年の一番人気の企画が「バンジーメイド喫茶・改」で、屋外の喫茶スペースにメイドが校舎の屋上から注文の品をバンジージャンプで届けてくれるというある意味斬新な企画だった。
一昨年にバンジーする際に必ずパンツが見えてしまっていたのを改善したことから客の数は半減していたが、相変わらずの人気だった。
逆に一番人気が無かった企画が「鉛筆写真館」だ。
世界中の鉛筆の紹介、成分分析、名の由来などを書き添えられた鉛筆の写真が永遠と数百枚展示されているというものであり、
それぞれの鉛筆による直筆のブロマイドまで販売していたが来客者は10にも満たなかった。

正直言うと、まともな企画など無いに等しい。
その学祭になんか出し物をしようというのが真実の考えだ。

確かに面白そうでは、ある。

「…いや待て。そもそも個人レベルで出せるのか?申請」
ハチャメチャな企画が無数に乱立する学園祭では数百あるクラブがここぞと申請をしてくる。
正直、個人レベルまで取り扱っていたら費用も場所も足りるわけがない。
「はん!そんなこと一切合切関係ないな!そんなもん生徒会長権限で一発さ!」
「それ職権乱用!!」
俺は目の前に座る狩染学園第76代生徒会長にたいして的確なツッコミを入れた。。
「ふふふ、的確なツッコミだな我が生徒会会計よ」
真実に悪びれた様子は無い。
「だが、貴様は間違っているぞ!」
左腕を横に一閃させ、彼女は俺に命じる。
「宇卒木真実が命じる。私の考えに賛同しろ!」
意味不明な命令のあと「キュアアアア…パシャアアン」と自分で効果音を付けた後俺に対して勝利の笑み。
「会長、アニメの見過ぎだ」
とだけ俺は突っ込んで後はめんどくさいので無視する。
無論、彼女の瞳から人を一回だけ絶対服従の命令を出せる翼のような光なんて出ないので怖くはない。

「モグゴクッ…なんだ。あの噂は本当だったのか」
突然、桐美が会話に口を挟んできた。
「なんの噂だ?」
「あぁ、生徒会会長になった暁には文化祭で個人の企画をやらせろと、真実が教員達との間に交わした契約の話」
うわそれ密約だ!!
と心の中で一瞬思ったがとりあえず黙っておく。

「…ちょっと待て。つまりは何だ?こいつは生徒会会長に立候補した瞬間から既にこのことを企画していたということか!?どんだけ長期の企画だよ!」
「ほぅ、なかなかの洞察力だな。その通り!私はこのためだけに生徒会会長になったと言っても過言ではない!素晴らしいなぁ!権力って!」
真実は両手を広げておおらかに叫ぶ。
周りの客と店員が訝しげな目線をこちらに集める。
正直なところ営業妨害だろう。
「くかか。実に愉快だったよ。学校側は誰一人私が生徒会会長の選挙を勝ち抜くなどと想像もしていなかったようだからなぁ!」
あー、そういえば手伝わされたっけ。
裏工作。
あまりにも種類が多すぎて覚えてないけど。
しかも全部考えたのは俺だけど。

でもまぁ、その結果として今こいつは生徒会会長の椅子に座っている。
ある意味なるべくしてなったわけではあるな。

こういう悪巧みは俺たちがまだ子どもの頃からよくやった。
現在の生徒会の役職全員、つまり会長の真実、会計の俺、書記の桐美、副会長の理火(リカ)と理華(リカ)の五人は全員幼なじみであり、つい十年前までは毎日悪さばっかして遊んでいた。
しかしその後散り散りになり、高校になってやっと再会を果たした。
散り散りになって六年。
皆が変わって無いわけが無かった。
特にーー
「おい、聞いているのか?なっちゃん」
ーー…おっと、なっちゃんは俺か。
ちと昔の記憶に浸りすぎたかな。
「…いや、すまんかった。微塵も聞いてなかった。で?なんだって?」
「だーかーらー!学祭の出しもんだよ!桐美が言ったのでいいよな?!」
「桐美が?!」
あいつがこんなイベントに積極的になるとは全くの予想外だ。
「で?なんて言ったんだ?」
俺に問われて桐美は口の中に残っていた食べ物を咀嚼、嚥下し改めて口を開いた。

俺の、全く予想だにしなかった答えを。






「音楽を、やろう?」





******


「…はぁ?なんだって?」
と俺は思わず問い返したのは二時間前。
現在、俺、桐美と真実は学校に戻って来ていた。

授業のため、ではない。

場所は三年C組。
真実の隣のクラスだ。

「やあひっちゃん!迎えに来たよ!」
真実が勢いよく扉を開き中にいる生徒達に大声で呼びかける。
教室内の誰もが教室前方のドア(全く大した度胸だ)からの珍乱入者を見やる。

あぁ、視線が痛い。

「……なんか用か?」
驚き固まる人たちの中から一人だけが反応する。

キリッとした顔立ちにフレームの細い眼鏡。
銀色のメッシュの入っているように見える黒髪は実は元の色が銀色で黒く染めているのだというのはあまり知られていない。
そんな大人しそうな優等生に見える青年のひっちゃん、またの名を仮乃理火(カリノリカ)が答えた。

「生徒会の私用だ。来い。」
真実は笑って答える。
うわ今もろ私用って言った。

「……わかった」
あーあーあー。
あの顔は怒っているな。

「…そしてお前ら」
理火はおもむろに席を立ち俺たちの前まで歩いてきて。


「今授業中だ」


ピシャリと教室の扉を俺たちの目の前で閉めた。



5分後

「なんじゃあいつはあああああああああ!!」
の怒声と共に今度は二年F組の扉を真実はブチ開けた。
やはり、教室の前の方の扉。
もう一人の生徒会副会長であり、理火の妹である仮乃理華(カリノリカ)の教室だ。

「へ!?か、会長!!?うわそれになっちゃんと桐ちゃんまで!?」
教室の前の方に座っていた女の子が反応した。
顔立ちは兄弟だけあって理火と似ているが彼と違って柔和な顔立ちである。
綺麗に切りそろえられたおかっぱ頭には理火と同じく銀色のメッシュに見える地毛が見える。
ただし、理火とは反対の位置にあるが。
「りいいいいぃぃかああああああ!!!!!」
「ひぃ!?」

「いややめろよ。怖がってんじゃねーか」
とりあえず激昂する真実の頭をはたいて止める。
しかも真実激昂している相手は先程誘いを無言で断った理火に対してのものだからさらに性質が悪い。
というかわかりにくい。

「なんか真実が面白いこと考えついちゃったんだってー」
「だから、来い」
お、命令形。
「え?え?え?でも、え?」
理華は黒板の前で俺らを半眼で睨んでいる教師と俺らの間で視線を泳がせていた。
まっ当然の反応だ。

今回「も」授業中。

よし、こういう時は俺が一言言ってやろう。
「……真実、あと一押しだ」
ポンと背中を一押し。それが参謀の仕事。
「生徒会会長の命令だぞ!!」

「うるせぇええ!!!!こちとら今授業中だぼけぇ!!!!!」
先に先生がキレた。

いつも疲れている感じの真西東(マニシアズマ)先生が真実の都合で授業を邪魔されるのはこの一週間だけでも四回目だ。
キレて当然である。
「仮乃おおおおおお!!てめぇこの馬鹿なんとかしやがれええ!!そこの馬鹿ABC!!貴様等も授業中だろうがあああ!!!特に宇卒木いいいい!貴様に至っては学年もちげえだろおおおおお!!」
「まぁまぁ先生、あまり興奮するとまた彼女に逃げられますよ」
「既婚者じゃボケェ!!!」
わーい。
新情報ゲット。
カマはかけてみるもんだな。

「あ、あぁあ…先生落ち着いてというか今授業中…」
「早く行こう?理華」
「拒否権は!!?」
一人冷静な桐美が誘う。
まぁ、誘うあたりが既に冷静とは言えないが。
「ダアアアブラ!!」
まるで某マンガに出てきた魔王の名前に似たような叫びと共にチョークが俺たち三人の眉間に直撃する。
この学校で唯一真実にチョークをぶつけられる教師、真西東、恐るべし。
真実相手だと掠らせることすら困難なのに。


*********


俺たちは額に絆創膏を貼ったまま生徒会室に集まっていた。
生徒会室は広く、俺たち三人が中に居ても圧迫感は一切感じない。
部屋の中心に置いてあるテーブルを囲むように置かれている二組のソファーの上で俺たちは休息を取っていた。

「…で?何の曲をやるんだ?」
まだう〜とかあ〜とか唸っている二人に問い掛ける。
俺もまだ額が痛い。
唸りたい。

「カバーするならある程度有名なアーティストの方がいいかな。そっちの方が観客を引き込みやすいし。誰だろ…grayとかPAMSとかなら無難だと思―」

「オリジナルだ」

突然桐美が割り込んできた。
…何だって?

「私は、オリジナルの曲をやりたいんだ。曲も、歌詞も、全て出来ている」

何を言っているんだこいつは。
「…つまりはなんだ?俺たちはあと数週間でその曲をマスターしないといけないってことか?」
「そうだ」
なんてむちゃくちゃを言いやがる。
自慢じゃないが俺たちは音楽のド素人だ。
ただでさえ時間が無いのにオリジナルの曲なんて人の前に出せるほどのレベルにできるわけがない
「面白そうじゃないか。私は賛成だね」
今まで傍観を決め込んでいた真実が意見を述べた。
「…馬鹿言え。もうちょっと現実的に考えてみろ。」
「馬鹿にならなければいいんだろ?完成させれば文句は無いはずだ。私はやるよ?一度言ったからには絶対に」
うわ。めんどくせぇ。

「それに、初心者は貴様一人だ」


…は?


「…待て。今なんて?」
「聞いての通りだ。初心者はお前一人。残りは全員なんらかの経験はある。」

「……おいおい、初耳だだぞ?」
内心の動揺を悟らせないように返事をする。
失敗したけど。

「当然だ。聞かせてないし聞かせるつもりもなかったからな」

ん?聞かせるつもりが無かった?
「何故だ?」
純粋な疑問を投げかけてみる。

それに対する返事は意外な形で返ってきた。

「お前に聞かせては、いけなかったからだ」
後ろの扉が開くと同時に理火が言った。
あ、結局授業抜けてきたのね。

「そしてその理由はお前の思っているよりずっと重い」
重い?
俺の疑問をよそに、理火は桐実に話しかける
「…き助、さっきのはマジで言っているのか?」
それは、疑問というより詰問だった。
理火の目は鋭く、不機嫌なのは明らかだ。
しかし、そんな理火の視線を正面から受けつつも桐実の瞳に揺らぎは無かった。

「ひーちゃん、これが私が三年で出した答えだ。だから、私は折れないよ」

…三年?
あの空白の六年の間に何があったんだ?

「き助ぇ!!あれで理華はー」
「ひーちゃん」
理火の突然の激昂を止めたのは真実だった。
理火と桐実の間に入り、二人に手のひらを向けて制止を要求する。
「ちょっと黙って」
「真実!お前ー」

「黙れ」

二回目の静止は完全な命令だった。


「…ひーちゃん、気持ちはわかるがもう終わったんだよ。魔法の四重奏(カルテット)は。桐美が終わらせると、決めたんだ。」
理火はまだ言いたいことがありそうだったが、結局黙った。

真実は俺に振り返る。
「今こそ話そう。なっちゃん。三年前に私たちに何が起こったか。そして始めよう。現実の五重奏(クインテット)を」




そしてその日俺は虚構の友情と別れを告げた


*******


三年前、ある地方で小さな事故があった。
とある音楽コンサート会場の火災事故。
コンサートには総勢300人弱の人がおり、奇跡的に死者は出なかったものの50人程の負傷者を出した。
そしてそのコンサート会場には当時の音楽界三人の神童のうちの二人、天才ピアニスト『旋律』仮乃理火と天才ボーカリスト『言葉遊び』宇卒木真実が来ていた。


「俺は発表だった理華の様子見に」
「私は彗星の如く現れた最後の天才『音起源』南枕桐美に興味を持って」

…え?

「桐美も?」
一瞬だが動揺が隠せなかった。
「あっちの世界じゃちょっとした有名人さ。俺たちはな。」

そして起きた火災事故。
出火原因は不明。
しかし炎は瞬く間にコンサートホールを包み込んだ。
その炎のせいか天井の一部が崩落し、出入り口を塞いでしまう。
これらの不幸な事象が多くの怪我人を出すこととなった。


「丁度理華の発表中だったんだ。俺は客席からステージに飛び出し彼女を抱えて安全な所に退避しようとした。しかしー」
理火は肘まで自分の袖を捲った。

現れたのは醜い傷跡。

二の腕の途中まで続く大きなものだ。

「落盤が俺のピアニストとしての命と左肘を砕いていった。
おかげで二度と弾けない体だ」
そう言いながら袖を直す。
肘にあった醜い傷はまた袖に隠れて見えなくなってしまった。

「まぁ、正直俺のことなんてどうでもよかったんだ。俺としては目の前で兄の肘が潰されるのを目の当たりにしてトラウマを負い、二度と楽器を手にすることができなくなった理華のことの方がよっぽどショックだったがね。」
そう言って理火は部屋の中にあったソファーに腰をかけた。

「…私も理華と似たようなものだ。歌おうとするとどうしてもあの事故がフラッシュバックしてしまってね。人前で歌えなくなってしまったよ。わかりやすく言うとトラウマになったってわけだな。
もうあの事故から何年も経つから大丈夫かと思ったがそうでもないようだ。
笑えるよ」

理火に続けて自分の過去を話した真実は自分の手を見つめる。
握力三桁を誇り、あまたの敵を屠ってきた彼女の無双の両手は微かに震えていた。


・・・・・空気が重い
だが、まだだ。
まだ、終わっていない。

「そして、桐美は?」
あと一人分、俺は過去を知らなくてはならない。
「・・・・・」
桐美は口を開かない。
話せなかったのか、話したくなかったのか、知ったことではないが無言を続ける彼女の口とは裏腹に心中は穏やかではないのが見てわかった。
「・・・・やはりお前は意地悪だな。既に大方察して入るんだろう?」
桐美はやっと口を開く。

決意は、固まったのか。
だから言ってやった

「察しているからこそ、聞きたいのさ。」

俺の言葉に多少の驚きを見せたものの、桐美は小さく笑った。
そして桐美はため息と共に言葉を紡ぎ始めた。


(続く)
【作品解説】(09,02,13更新)
通学中の電車の中が暇すぎて携帯で書き始めた作品
俺にしては珍しくドンパチのないただの学園青春ものを書こうとしたわけだが
正直なところ、ひどい(´・ω・`)
たくさん書くと携帯だと文面とかが確認しづらくなるから多分、ところどころ綻びが
でも話的には気に入っているので続きは書きたい