【隙間の時間】



「やあ。ここにいるってことはサボりか?」

ここは学校の屋上。眼下ではどこかのクラスが体育をしている。
もちろん、俺のクラスではない。
俺のクラスは今頃全員メロドトスだのイッソスだのマグニトスだのよくわかんない世界史の言葉をあのハゲの酒田に教え込まれているはずだ。マジ世界史意味わかんねぇ。
季節は夏が過ぎもう少しで秋真っ盛りかというようなそんな時期、大嫌いな世界史の授業をサボって屋上にいたら後ろから声をかけられた。

「・・・・お前だってサボりだろう?」

少し振り向きつつ、半眼で声を低めて答える。一人で屋上での楽しみをしていたところを邪魔されたんだ。友人相手とはいえこれくらいの不機嫌さを出していてもバチは当たるまい。

「残念。私の授業は自習になったのでね。自分の持っている教材を全て解き終えてしまったんだ。そしたらもう暇で暇で。まったく、高校で教えることなんてたいした応用性も無いのに何で教えるのかね?時間の無駄な気はするんだが。」

授業をサボった俺への嫌味だろうか。

俺たち、つまり彩島広子(サイトウ・ヒロコ)と暮谷未知雄(クレダニ・ミチオ)は中学の頃から仲が良い。むしろ、お互いに唯一の友人ともいえる。クラスから隔離された者同士が話し相手を求めて馴れ合った結果だ。その関係は高校になった今でも続いており、クラス内に友人ができずに話し相手を求めてお互いに相手のクラスを訪ねたりしている。お互いにそれなりに整った顔立ちをしているためたまに「付き合っているの?」と聞かれることもあるが、それは絶対無い。俺たちはお互いを恋愛対象としては絶対に見れないからだ。
今となっては腐れ縁と言うやつだが、実際、何でこんなにも価値観が違うもの同士が仲良くなったのは疑問ではある。

「まいいや。で、何見てたんだい?私の楽しめそうなものかい?」

「まぁ、ね。俺とは見る場所が全く違うだろうがな。」

「なんだいなんだい?興味あるね。お?お?おおおお!!D組の体育の授業じゃないか!!!これは眼福眼福。」

D組だったのか。そういえば確かにところどころ見たことある奴がいるとは思った。

「D組は意外とイケメンが多いからなぁ?ほら、見ろよあの背の高い奴。確か暗堂(アンドウ)ってやつで、私の中ではA−(エーマイナー)の部類に入るぞ!!あ、その二人後ろのショタっぽいのが傘衣(カサイ)で、女子の中で人気だったりするんだ。まぁ、私の中ではB位なんだがな。お、今走ったのがこの学年で3人しかいない私評価Sの神酒(ミキ)君だ。たいしたイケメンだろう?」

聞いても無いのにD組男子の評価を俺に聞かせてくる。全く。俺にはそんな趣味無いのに。迷惑なものだ。

「で?君は誰を見ていたんだい?神酒君はやらんよ。」

「いらねぇよ」
唐突に俺の存在を思い出したのか話題を振ってくる。自分だけ話すのはアンフェアじゃないかとでも思ったんだろう。こいつはそういうやつだ。こいつは私の返事なんてわかっていても疑問形で確認してくる。結構めんどくさい。

「俺が見てたのは騎士土(キシド)、猿渡(サルワタ)、虹村(ニジムラ)、能吏(ノウリ)、墓未(ハカマダ)かな。順番F、D、D、C、Bカップだ。虹村と墓未は安産型だな。個人的なオススメは墓未。多少引っ込み思案だがいい女房になるタイプだ。何より眼鏡がいい。時点では騎士土か。あの胸は反則。けしからん乳だ。埋めたい。というか性格もいいね。この前少し話したら『君は少しは私の気持ちを考えろ。言いたくはないが迷惑だ。』とか言われた。少し恥らいながらもハッキリ言うところがGood!」

と、俺は親指をビシィ!っと上げるがやつは校庭で短距離走をしているイケメンどもに見入っている。聞いちゃいねぇ。自分で話振っておきながらこれかよこのやろう。

「やばいなー。暗堂君のふくらはぎ萌えス。」

やばいこいつ気持ち悪い。

「あーもう。騎士土のおっぱい萌えス。」

「・・・・・・・・・君ってやっぱり気持ち悪いな?」

こいつうぜぇ。

「ところで、君はどうするつもりなんだい?」

唐突に、奴がすごい曖昧なことを言い始めた。

「ん?何をだ?」

「残りの学生生活さ。君だってこのままでいる気は無いんだろう?彼女でも作ったらどうだい?」

んだこいつめんどくせぇ。

「お前こそ彼氏作れよ。」

お返しに一言返してやるとやつは少し笑いながら俺の隣に並んできた。一緒に柵に寄りかかり、眼下の学生たちから空へ視線を移した。

「ははは。私の場合は作りたくとも敬遠されてね。」

だろうな。お前気持ち悪いもん。と心の中で思ったが口には出さないくらいの優しさは俺にはあった。
俺も反転して柵に寄りかかりながら空を見る。
背中に柵が当たって痛い。
だがこの方がよく空が見える。目の前にあるもの全てが空だ。
ふむ。今日もいい天気だ。

「まぁ、私の場合も似た様なもんだがな。理由はお前とは違うが。」

「はははは!お互い苦労するな!」

理由はお前とは違うと言ったんだがな。まぁいいや。こいつが人の話聞かないのはいつものことだし。
ふむ・・・それにしても彼女か。考えたこともなかったな。
俺も作った方がいいのかなー?どうやって作るんだろ。今度墓未にでも告ってみるか。

「・・・・・あれ?下で声が聞こえなくなったぞ?」

空を見ていることに集中していたらずいぶんと時間が経ってしまったようだ。校庭からの声は消え、もう誰も残っていない。

「授業が終わったようだね。みんなとっくに帰ってしまったよ。」

奴は俺の疑問に対する答えを教えてくれた。
もうそんな時間か。そろそろ教室に戻らないといけないな。
さすがに一授業分風に当たっていると寒かった。

「さて、私はもう教室に帰るが。一緒に帰るかい?」

「ん〜。まぁ、いいぜ。丁度俺も戻ろうと思っていたところだし。ただし、そこの扉の前にいる鎖々胎(ササハラ)が通してくれるんならな。」

校舎と屋上をつなぐ扉。その前にうちのクラスの委員長、鎖々胎糊雪(ササハラ・ノリユキ)が立っていた。どうやら早めに授業が終わり、余った時間で俺を探しに来ていたようだ。なんとも迷惑なやつだ。

「彩島!暮谷!お前らここで何やってる!」

お前こそ何やっている。

「おい!無視するな!!何をやっていたんだよ!!先生に言うぞ!!?」

「男の子見ていた。」
「女の子見ていた。」

こういう時に正直に即答してしまう俺たちってどうよ?
俺だったら全力で殴っているね。

「さて、正直に答えたぜ。そこ通してもらえるかい?」

「ふざけるなああああああああああ!!!」

ですよねー。
俺だってこんな返事じゃ通さない。
まぁ、通さないと言われても通るんだがね。
柵から体を離し、奴と一緒に鎖々胎の隣を歩き過ぎる。

「じゃ、先戻ってるからお前も早く戻って来いよ?」

屋上からの階段を下りる前に鎖々胎に声をかけてやる。あ、俺優しい。

「私の名前まで覚えてもらっていたとは意外だね。どうだい?今度デートでも?」

奴も奴で鎖々胎に声をかける。何を言うのかと思ったら口説くんかい。

「ざっけんなああああああああああああ!!!!」

おやおや。早いな。断られるの。
まぁいいやどうでも。無視無視。
隣のバカはハッキリと断られて少し凹んでいるように見えた。
このままでは動きそうになかったので俺は黙って奴の手を取り、階段を下り始める。
通った後も背後で鎖々胎は何かを叫んでいる。まぁ、委員長とはいえ生徒一人にできることなんてその程度が限界だろう。
まったく、めんどくさい。

なおも二人で一緒に階段を下りる。

二人の手はつないだまま。

その姿は傍目から見たらカップルに見えなくもないだろう。

だが俺たちは絶対に互いを恋愛対象にみない。

見れるわけがない。






何故なら

俺、『彩島広子』はレズであり、

俺の隣で歩く友人、『暮谷未知雄』はホモだからだ。




こうして、今日も元気に俺はかけがえのない友人、暮谷と一緒に教室に向かっていくのであった。


(完 )
【作品解説】
ミクシの方で「ほのぼの」をテーマとしたもののリクを受けて一晩で書き上げた小説。
なんか中途半端な終わり方をしてしまったのは残念ではある。(´・ω・`)
しかし、この作品に出てきているキャラは結構気に入っているのでもしかしたら他の小説にも流用するかもしれないと密かに思っていたり。