【天才派遣事務所】
目次

前回分 第一話その1





【天才派遣事務所】第一話その2




幼少の頃から自覚はあった。
いや、自覚があったからこそあの内乱時代を生き抜いてこれたのだろう。
自分の勘は鋭いということに。
だから今更指摘されたところでその事実に関して驚いたりはしない。
驚いたのは違うこと。

俺はこの能力があることを『誰にもばれないように』してきた。

自分の直感を頼りに。
自分の能力への絶対の自信。今までの俺は全てこの自信という確信のもとに行動して失敗したことは無かった。
それ故に、今回何故自分の能力が奴らにばれたのかわからずに焦った。

そしてさらに最悪なことに、
俺の勘は『こいつらから逃げられない』とも告げていた。

「・・・・・脅しか?これ?」

と俺はとうとう呆れて言った。
そう、これは脅しだ。
俺は既にこの勘を使った上で『俺の意思に反して』今ここに居る。
つまり、俺の能力は『通用しない』ということだ。
どういうからくりかはよくわからないがこの点は認めるしかないだろう。

「違うね。脅しではない。私たちはこれを提示することによってのメリットが」
「あぁ、まぁ、脅しになるね。」

姫々姫が否定したその矢先で光が認めやがった。

「む、まぁ、確かに見ようによっては脅しになるかもしれんな。ならば私はあれか。脅しだと認めたほうがいいのか?いや、その方が正しいのだからそうするべきなのだろう。では改めて言おう。墓薙逆。そう!これは脅しだ。私たちはお前にこの事務所に入ってもらいたくてな、心は少しも痛まなかったがお前を脅してでもここに入れようとしているんだ。というかさっさと入ってくれると楽なんだが?」

心くらい痛めろよテメェ。
と言うかさっきと言ってることが正反対だぞコラ。
いや、もう今更だけど。

「で?君はどうする?結局入ってくれるのかい?」

光は笑顔で俺に要求する。
この話し合い、目に見えない銃口がいくつも俺に突きつけられているのは言うまでもない。
言葉による圧力。それは時に単純な暴力よりも強い力を持つ。
そして今目の前にいる人物はまさにそれを使用している。
周りの空気がこんなにも鋭く感じるのは久しぶりだ。
あぁいやだ。怖い。
早く帰して。


そして

「・・・・まぁ、いいでしょう。別に。今のご時世、職に就くのは結構難しいしな。もう既に就いているが保険があるに越したことは無い。」

俺は根負けした。

「入りましょう。そのなんたら派遣所に。」

半分、投げやりなのは言うまでもないが。

「そう!あぁ、よかった!実力行使せずに済んだ!」
とりあえず光の不穏な発言は聞かなかったことにする。

そんなこんなで決意を固めたところで雨が打つような音がすぐそばから聞こえた。
振り向いてみると、姫々姫が拍手していた。

「おめでとう。おめでとう。これで君もこの天才の巣窟の一員だ。充分に誇るがいい。そして歓迎しよう。そうだな、今は祝いの言葉もいいがついでなので自己紹介もさせていただこうか、新人君。私の名前は紅原姫々姫(クレナイバラ・ミキ)。漢字は紅の原っぱに姫、姫、姫だ。ここで副所長をやっている。まぁ、かといって経営が得意というわけではないんだがな。単純に私がここに二番目に来たから副所長になっただけだ。そう、二番目に入ってきた。それだけだ。たったそれだけの理由で私は副所長になれた。『天才派遣所』が聞いて呆れるだろ?こんなずさんで。だがそこが重要なんだ。私らは基本わがままなんでな、自分のやりたいことしかしないんだよ。だからめんどくさい事務所の経営とかはほぼ全て光にまかせっきりなんだ。つまり光以外は全員ヒラだとも言えるな。ほんと、光様様だよ、と。おっといかん。話がそれたか。そう、で、この派遣所にはな、それぞれの人に担当の領域があるわけだ。そしてこの派遣所においての私の担当は『戦闘』。一騎当千、百戦錬磨とでも言おうか?まぁ、そんなことしたこと無いのでわからんがな。ちょっとした軍隊相手でも勝つ自信はあるね。ふふふ、軍隊相手か。さすがにまだやったこと無いのでどれくらいの規模なのか想像もつかないな。」

―と、ここまで姫々姫が(恐ろしいことに一息で)喋ったところで口が塞がれた。
塞いだのは先ほどから毒ばっか吐いている女――カザリと言ったか――だった。

「で、姫々姫ちゃんは少しおしゃべりなんだよね。自分で自分の台詞を解説したり。でも慣れてくださいね。彼女の癖みたいなものですから。でないと神経が持ちませんよ?」

彼女は姫々姫の口を塞いだままなおも続ける。

「で、私ですね。私は未来過去(イマダキ・カザリ)といいます。漢字で書くなら『未来』と『過去』ですね。体裁上ではここで会計をしています。まぁ、会計というところから少しは気付くかもしれませんけどここでの私の担当は『計算』です。どうぞお見知りおきを。」

過去はうやうやしく礼をする。全ての行動、言動が嘘くさい女だ、と少しだけ思った。行動全てに裏のありそうな、そんな空気を持っていやがる。

パタム

後方で音がした。どうやら本を閉じた音のようだ。
そうだ。これまで一言も声を発さなかったからもう一人いたことを忘れていた。

後ろを振り返る。ちょうど、ソファに座っていた女性が立つところだった。
ストレートの黒の髪の毛は腰まで届いており、そして目も丸く、柔和な顔つきが特徴的だ。

・・・・・・・あれ?

しかし何か違和感を感じる。
彼女の持っていた本(100年前ほどに流行したラノベとかいうやつだろう。確かタイトルは涼宮ハルなんたらだっか)が小さい。
いや、違う。そんなわけが無い。

「でっか!!!!!」

思わず、叫んでしまった。
そう、もちろん本がでかいわけではない。立ち上がった女。彼女本人が俺の予想をはるかに上回るでかさだったのだ。
先ほどまで俺と話していた女、つまり姫々姫と過去は身長がそれぞれ170、160前後。
女性としてなら、姫々姫は割と高い方に入るんじゃないだろうか。

だが

今俺の後ろで立ち上がった女の身長は軽く180を超え、190近く、いや、もしかしたらそれ以上あるだろう。
俺が、人を見上げる立場になったのは久々だ。

その女はソファから立ったあと、特に何かするわけでもなく黙って俺に向かって一礼しただけだった。

「あぁ、そういえば紹介がまだだったな。すまないすまない。こいつは朝影文(アサカゲ・フミ)。美人だろ?美人だよな?やばいよな?私は女だけどこいつにぞっこんだよ。あぁかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい。」

そう言って姫々姫は嫌がる文に頬を摺り寄せる。ここまでやられると気持ち悪い。

「私と文は所謂幼馴染というやつでな、本当に子供の頃から私たちは一緒だった。うん。四六時中一緒に居たな。起きているときも、寝るときも、風呂もトイレも一緒だったぞ。だから私は文のあんなところやこんなところも全部知っている。」

『トイレまで一緒じゃ無かったよ!!!!?(;゚д゚)嘘つかないで!!?』

無言のツッコミが入った。
そう、文はまだ一度たりとも喋っていない。先程のツッコミも彼女が手に持っていた端末に彼女が打ち込んで表示させたものだ。

「嘘ではないさ。私はちゃんとトイレにこっそり忍び込んでいたんだから。おや?どうした墓薙逆。そんな鳩がアンチマテリアルライフルを喰らったような顔をして。・・・・あぁ、そういえば一番重要なことを言ってなかったね。まぁ、見ればわかると思うが文は声が出せない。いや、出さないのか?まぁいいやどっちでも。ともかく彼女は喋らない。ま、で代わりに彼女の代弁者となるのがこの手に持っている端末さ。まぁ、私くらいになるともう端末などに頼らなくとも文が何言いたいかは目を見ればわかるがな。この端末、彼女の手の平サイズしかないがすごくわかりやすく言うとこの世界全てが収められていると考えてくれればいい。うん、この世の情報全てがこの中にあるとでも言おうか。彼女の担当する『情報』はね、とてもシンプルに収納されているのさ。何か、知りたい情報があるとしたらまず文に聞いてみるといい。期待している情報量の十倍は教えてくれるはずだ。まぁ、そのさらに十倍の情報を搾り取られるだろうがな。」

『人聞きの悪いこといわないで!!?(;゚д゚)ひどいよ!!><逆君?嘘だよ?嘘だからね?姫々姫ちゃんの言うことなんて信じないでね?』

承諾の意味ではなかったが俺はとりあえず首を縦に振る。
このやりとりで大体朝影文という人物がどんなキャラなのかが大体わかった。
というか鳩がアンチマテリアルライフルの一撃を喰らった日には顔どころか全身が血煙を上げて消失してると思うんだが。むしろ俺そんな顔していた自分の顔見てみたい。

『ともかく!え、と、よろしくね?逆君。』

「あ、はい、うん。よ、よろしくお願いします。」

後に聞くことになるのだが、彼女はこの身長で俺より一つ年下らしい。どうやればこんなに育つんだろうか。
彼女の全身を見つめつつ、俺の視線がある彼女の体のある一点に止まる。

あ、なるほど。

体に凹凸ができずに地面に対して凹凸になってしまったわけか。


「本当はもう一人、男で身裏堅透(ミウラ・ケンスケ)ってのが居るんだがね。彼は遅刻とか言って今日は居ないんだ。」

「はっ。あいつは遅刻じゃなくてサボリだろ?」

光の補足に対して過去がダメ出し。光の性別がわからない以上、そばに男が居れば安心できるような気がしたがその気分を味わえるのはまだ先のようだ。

「まぁ、紹介はこんなところでいいかな?堅透のは後回しにするとして全員分やったよな?」

「・・・・・いや待て。まだ一人紹介してないやつが残っているだろ。」

「む?どういうことだ?墓薙逆。うちの面子は堅透を除けばこれで全てだが?」

俺は小さくため息をついて言った。
「いや?もう一人居るだろ?ついさっき増えた奴の分が。」
そう、あと一人分。



つまり、俺だ。

「・・・・・名は墓薙逆。才能は『勘』。いや、今気付いたけど『流されやすい』って才能もどうやらあるようだ。でなきゃこんな状況になっちゃいないな。あとは人並み。特に秀でたものは無いと思っている。俺には何でこんな状況になったのかは未だに理解しがたいが俺の『勘』はあんたたちは悪人じゃないと言っている。なら別に無理をして断る理由も無い。」

そこまで一気に言って一瞬だけ考え込み、

「これからもよろしく。・・・とでも言えばいいのか?」

こういう状況に慣れてないせいか、妙に恥ずかしい。
いや、もちろん内心では嵌められたのは知っているんだけどね。
しかし、

「ふふふ、ではこちらはようこそ、とだけ言わせてもらおう。墓薙逆。」

俺に挨拶されてとても嬉しそうな姫々姫の笑顔を見たらそんなことどうでもよくなった。


「ようこそ。天才派遣事務所へ。」




(続く)


次回分
第一話その3