【天才派遣事務所】
目次

前回分 第一話その2





【天才派遣事務所】第一話その3



「周りを見てみたまえ。そう、活気のある街だな。墓薙逆。君もこの中の歯車として今までも動いていたんだろう?さて、ここで質問だ。この実情を見てどう思う?たった5年で様変わりしたと思わないか?5年前に此処であったのはなんだ?いや別に返事をさせるつもりは無いから私が答えてしまうんだがね?そう、内乱だよ内乱。この国では既にに終結したがね。もっともそれは政府が出している嘘の情報であり、この繁栄の裏で未だに闘争は続いている。重要なのはここだ。つまり、この街の境界線―今私たちが目指しているところを越えてしまえばそこは5年前と変わらぬ内乱の世界だ。まぁ、政府が国というシステムを維持する為に内乱の終結という偽の発表をしたのは評価できるが実情では全然好転していないわけだよ。むしろ活気がある場所ができてしまって経済での貧富差が開いてしまったくらいだ。では、その内乱はどうなっているのか。少し考えればわかるだろ?ビジネスだよビジネス。経済が一番潤うのは戦争だからね。裏で政府は色々な取引とかをしているわけだ。もちろん政府だけではない。『クルセルド』や『ギロチン』、『ネオ・ジパンゲ』、『ABCから始める英語』、『ネコミミー』、『栄光ある未来を作るために協力を惜しまない義賊倶楽部』他多数の反乱分子もこの国だけでなく外国との癒着がある。まぁ、つまりは泥沼。どこもかしこもビジネスを―いや、『内乱』を『続けさせようと』必死さ。内乱が治まる気配がないならそれを全力で利用するしかない。20年も内乱が続いているなんてなんとも嘆かわしいね。そうそう、そしてビジネス。政府とか貴族とかの馬鹿な奴らがこのビジネスに参加しているわけだが元々裏の稼業であるだけに動かせる人材に限界があるわけさ。そうして切羽詰った馬鹿な奴らが私たちに依頼を申し込むことがこの事務所において一番多い例だ。つまり、この事務所ってどちらかというと裏の稼業なんだよね。まぁ、裏といっても戦闘だけではないさ。物の横流し、者の横流しとかこっそりした仕事もやったりする。まぁ、今回の仕事は楽でいいね。境界の向こうでの人探しだっけ?こういう普通の依頼なら何事も無ければ数時間で終わるさ。もっとも―」

みたいな話を俺はかれこれ2時間ほど姫々姫にノンストップで聞かされている。別に頼んではない。
この2時間の間に俺には一度の発言権も無く、姫々姫自身も発言させる気は無いようだ。
何がつらいかというと姫々姫のおしゃべりは終わる気配がない。
終わりの見えない旅がつらいように終わりの見えないおしゃべりも充分脅威だ。

新塾(シンジュク)のとある大通り。今俺は姫々姫、過去、文と一緒にこの街の境界まで歩いているところだった。
昼を過ぎた時間だからか、多少人の人はいるが普段に比べれば少ない方だ。
誰もが飯を買ったり、会社に移動してたりと平和なものだが俺の心中はこんな奴らと違って穏やかなものではなかった。

そう、

俺がスカウトを受け入れたところ光にソッコーで仕事を振られたのが3時間前。

「一回仕事する方が百回口で仕事のやり方を説明するよりわかりやすいでしょ?」

というのが光の言い分なのだが、だからといっていきなり現地はネーヨ。

だってお前境界って言ったらわかりやすくいうと銃弾の飛び交うスラム街だぜ?俺の危険察知センサーがビンビンに反応してるよ。

事務所(意外なことに俺が拉致られた所から徒歩10分も離れていなかった)を出てからずっと姫々姫は喋りっぱなし。
過去は一切姫々姫の言う事に耳を貸さず、かといって俺や文と会話する気も無い。
文だけはたまに俺に端末で『大丈夫?(´・ω・`)』とだけ聞いて心配してくれていた。
心配してくれるだけ、嬉しいの、だが。


街の境界。紛争地帯と安全地帯の境界線といっても実際見てみるととてもシンプルなものだ。
武装した兵士が交代で見張ってはいるが、境界線自体は黄色いテープで区切られているだけなのだ。

テープに書かれている文字は『KEEPOUT』。直訳すると『入るな』。
ちなみに裏面には『DON'TGETOUT』、直訳すると『出るな』と書かれているらしい。
無駄に、芸が細かい。
とりあえずどちら側からだろうとこの線を越えること自体が許されない。
越えようとしたら兵にとっ捕まって厳重注意。
越えたら射殺。
これルール。

まぁ、その線を俺たちはこれから越えないといけないわけだが。

こうさらに10分ほど歩いていると境界線が見えてきた。
この頃には姫々姫の話は漫画についている帯は何故必要かという話になっており、一緒に歩いているメンバーの誰も聞いてやいない。

境界線に居る兵士の数は3人。
幅20メートル位の通りを均等に立って見張っている。
全員最新鋭らしき強化外骨格装甲を纏っていたが誰一人として頭のバイザーをつけていない。
まぁ、それもそうだろう。わざわざこんなところに近づこうとする奴なんて馬鹿か阿保か狂人か天才位しか居ない。
常時完全装備などやっているだけ体力の無駄だ。
それでも、外骨格装備による2メートルを越えた身長と腕に持った秒間800発を発射する全自動機関銃は充分に近づくものを威嚇していた。

境界線近くまで来るともう人通りは皆無であり、道の真ん中を話しながら堂々と歩いている俺たちはさぞかし目立っているだろう。
しかも、俺はてっきり裏のルートか何かを使ってこっそり入るものだと思っていたが何この正面突破。
はっきり言って怖いなんてレベルじゃない。


「であるからして、・・・おっと、もう着いてしまったか。よし、多少気を引き締めるとするか。さすがに静かに行かないと気付かれるよな。黙るとするか。苦手だが私は努力するよ?文はどうする?褒める?私を褒める?」
『姫々姫ちゃん。もう黙って。境界線の前なんだから。ね?』
文からの叱責。
ここにきてやっと姫々姫が事務所を出て初めて自ら喋るのを止めた。
もうなんか今となると黙った姫々姫を見るほうが気持ち悪い。そんな気分になった俺はもうだめだと思った。
「さて、姫々姫が黙ったところで行くか。」
過去がそう言って進む俺を含めた一行。

向かうは兵士たちへ一直線。


マジデスカ。


尻込みする俺に気付いてか気付かなくてか歩き出そうとした過去がふと足を止めて俺に向き直った。

「あ、そうだ墓薙。これから境界線を越えるわけだが心の準備はできたか?」

できてません。

「まぁ、できてようとできてまいとどっちでもいいや。もちろん、私たちがあそこを越えるのは違法行為だ。私からのアドバイスは一つだけ。お前は一切動かないでいい。ってか動くな。動かなければ姫々姫が向こうまで無事運んでくれる。もちろん、喋るのも無しだ。」

はい。絶対喋りません。
動きません。




そしてこのとき、俺はこの世で味わったことの無い気持ち悪い体験をした。



俺は姫々姫に襟首を持たれ、そのまま持ち上げられる。気分は猫か。
っていうか俺今女の子に片腕で持ち上げられてるんですけど。

そしてそのまま姫々姫は体を多少揺らしながら『まっすぐ』兵士の横を通り過ぎていった。

兵士に気付かれた様子は無い。



な ぜ


その後はそのまま姫々姫がループ。
連れては戻り、連れては戻りと全員を境界線の向こうまで連れて行った。


後に、姫々姫が教えてくれた。
「あ、あれか。なぁに、そう難しいことではないよ。一種の視線誘導みたいなもんだ。例えば、私とある人が対峙しているとする。私は気付かれないように相手の右側に小石を投げてみる。相手は小石の落ちる音で右側に異常があったと認識し、そちらに意識を傾ける。その瞬間、左側への意識は一気に薄くなり、そこに隙が生まれるわけだ。そしてその隙を突いて左側から相手を突破できる。まぁ、私がやったのはそれに似たようなもので相手の視線が何処を意識しているのかを正確に読み取り、その上で目の『盲点』の部分を通って移動するだけさ。相手の盲点の位置に立ってしまえば目の前に居てもあちらからは見えないわけだからな。それを連続的にやれば、ほら、気付かれずに移動できる。簡単だろ?」

意味わかんないです。

「初めのうちは結構失敗したからな。この歩き方を練習する間に何回も兵士をのしたよ。ははは。あの外骨格装甲、意外と堅いんだぞ?まぁ、ティッシュか画用紙かぐらいの違いしか私には無かったが。」

兵士相手じゃなくても練習相手は居ただろうに。
と思う俺。
だが一方でどこか腑に落ちない点があった。
だがそれが何かわからずに次の姫々姫の台詞ですぐに忘却の彼方へ消えて言った。

「まぁ、晴れて境界を越えたわけだ。さっさと探してしまおう。もっとも?現状では私たちの武装は私の手持ち用ナイフ一本しかないから銃弾とかには気をつけないとね?何処から飛んでくるかわかんないし。」

あ、流れ弾とか来るんすか?

姫々姫は絶賛楽しそうに自分のズボンの尻のポケットに入ってた刃渡り10センチほどのナイフをくるくる器用に回す。

「それにこれ安物だから多分二回も持たないだろ。精々一回切れれば充分。30ガネで買ったやつだからなー。」

ナイフに頼るなってことですね。
もう俺帰っていいですか?
ここに居たら死ぬ気がします。

「ははは。なんて顔してやがる。まぁ、そう心配するな墓薙逆。今回はただの人探しだ。そう荒事にはならないと思うぞ。」
多分、彼女は経験からきた上での事実を述べたのだろう。
しかし、俺にとってそんな言葉、何の慰めにもならなかった。

何故なら。



俺の『勘』が今回は荒事になると言っていたからだ。



そんな俺の気持ちを知ってか知らずか他の三人はさっさと仕事の話に取り掛かる。

「さて、姫々姫、お前はこの作戦会議中は黙ってろよ。話がややこしくなるから。とりあえず案は私と朝影で考えて実行がお前、そのサポートができるのなら墓薙に動いてもらう方向でいくから。単純(シンプル)だろ?」

姫々姫は黙って首を縦に振る。
それを確認した上で過去は文に向き直り仕事の作戦を決めにかかる。
どうやらこの嫌味ったらしい喋り方の方が過去の本来の喋り方のようだ。俺が最初に事務所に拉致られた時のあいつの猫の被った喋り方を思い出すと少しだけ鳥肌が立った。

「えーと?で?朝影ぇ、今回の探し人ってどんなやつだっけ?」

『今回、私たちの探し人は貴族の娘です。正確には内乱の間に介入してきた外国の貴族の中で序列が低く、勢力争いに負けて没落してしまった貴族です。』
「なるほどな。わかりやすく言うと人質かそれか血の詰まったお金の袋か。」
『かわいそうです・・・・』
「ハッ。貴族の馬鹿どもがその娘をどうするつもりか知らないが私らの仕事はそいつの発見、保護、引渡しが仕事だ。それ以後そいつがどうなろうと私らの仕事の範囲外だ。まぁ、良くて人質、悪けりゃ臓器の予備パーツ扱いだな。」

・・・・まぁ、こういうことが起こっているのは知っていたがまさか関わる羽目になるとは思わなかった。
正直聞いていて心地いい話ではない。

『彼女の名前はアルシエル=サルヴァ=ドレーナス=カルスアン=ウィルラッテンブルング。外見はこんな感じですね。』
そう言って俺たちに見せた文の端末には歳が10を過ぎたくらいの金髪の少女の顔写真が載っていた。

『か、かわいいですよね?///すごいよなぁ、外人の女の子って。お人形さんみたい。』
「あー、ま、私は興味ないし見た感じこいつ性格悪そうだからかわいいとは感じねーな」

「・・・・・・・あれ?」

「あん?どうした墓薙。頭が悪いのか?」
この眼鏡むかつく。死んじゃえ。

とりあえず過去への怒りを抑えて俺はもう一度端末を覗き込む。
アルシエルの外見的特徴の再確認。

歳が10を過ぎたくらいの外見。
金髪。
左目の下の泣きボクロ。
片方だけドリルの如くカールされているもみあげ。

『・・・?』


覗き込んでいた端末から顔を上げる。
周りは人も住まないような崩れ落ちたビルなどの跡地や内乱の跡が色濃く残った廃墟。
そして俺は目の前の廃ビルを確認。
その屋上







「・・・・・・・・・あれじゃね?」



境界線を越えてから30分。
探し人は、意外とあっさり見つかった。





(続く)



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